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2007年8月30日 (木)

Sさんの整経

工房の女の子Sさんが、今年の民芸館新作展に苧麻の角帯を出品する事になった。
糸はここ数年間こつこつと績みためたものを使うという。
毎年5月の畑焼きと7、8月の苧引きには必ず福島県昭和村に行くSさん。
もともと大学を出てから3年間修行したところなので、Sさんにとっては聖地巡礼といったところか。

7月の静岡新聞に私と一緒に写真が載ったのに、いくらSさんの携帯に連絡しても出ない。
宿泊場所の彼女の先輩の家へ電話をかけてもいない。
携帯がかからないところで一日中作業していたらしいので無理もないのだが、私は、彼女は神隠しにあったのだ、と思った。
結局まるまる一ヶ月すぎたある日、彼女の方から電話があってやっと連絡が取れた。
一ヶ月すこんと世捨て人のように世間から隔絶されて、ひたすら苧引きができるのは、すてきな事だと思う。

さて、Sさんの苧麻角帯の事である。
4月うちの工房に来てもらってから、ずっと苧麻を織れ、苧麻を織れと彼女に言い続けて来たが、なかなか腰を上げなかった。
そこで、思い切って親方用の角帯を注文したのである。民芸展に間に合うように、ちゃんと納期も決めた。
そして、今日Sさんは苧麻糸を使って整経をしたのである。
この糸は、昭和村で彼女が畑の手入れをし、種をまき、収穫して糸を引き、績みためた大切な大切な糸である。
Sさんが昭和村で教わった整経の仕方は、我々には驚きであり、新鮮だった。
まず、往復整経で織り終わりが輪になる事、数えあやの取り方が独特である事、そして、糸を上下に経ていく事など、私には初めての事ばかりである。
Sさんはみるみる手際よく糸を操る。
この方法だと、機の前後にかかる経糸のロスが少なくてすむ。
貴重な手績みの糸を使うのには有効な方法だと思った。

こうやって経た糸を自宅に持ち帰って、Sさんは自分の機で織る事になる。
今日は、お母さんに手伝ってもらって経巻きを終えただろうか。
素材感が薄いと言われる最近の民芸館展、Sさんの織った角帯はひときわ異彩を放つ事だろう。
入選は確実と思われる。

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2007年8月29日 (水)

日本女性最高の知能と葛布コート

先月、銀座の展示会で、ある女性に会った。
名前も住所も知らない。
中学生くらいのお嬢さんをつれていらして、二人とも着物だった。
葛布について大変詳しい。
何でも奈良出身で、春日大社の末社にあたるところにお住まいだったとか。
春日大社の蹴鞠の会では葛布の野袴が使われる事もご存知だったし、グレーを出すのに使われたラックダイを正倉院展でご覧になったともおっしゃった。
少し迷って、彼女はグレーのコート地をお求めになった。
展示会終了10分前の出来事である。

後で聞く所によると、二本で三人しかいない最高の頭脳の女性なのだそうだ。
なるほど、葛布は知的な女性によく似合う。

来年、葛布のコートと帯をお召しになっている彼女に、ぜひお会いしたいと思う。


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2007年8月28日 (火)

事任神社への奉納

今日、事任(ことのまま)神社へ葛布の狩衣を奉納して来た。
この神社の熱心な信者であるNさんの依頼で、一年かけて織り上げたものである。
縫製は京都の井筒屋さんという時代衣装のオーソリティーにお願いしたそうで、相当の熟練の職人さんの手によるものという。製作依頼から二ヶ月を要したとのこと。
葛の繊維は剛直なので、この始末の仕方は大変ご苦労であっただろうと思う。
天衣無縫とはこの事を言うのか。

奉納の儀式を終え、狩衣を手に取って見せていただく。
あげくびの始末や袖口の巻き上げ始末など、今までに一度も見た事のない見事なものであった。
柔らかな光を透過して宮司様がお召しになった姿は神々しいまでに美しい。

Nさんはとっても不思議な人だ。
二年ほど前ひょっこり工房にお見えになり、神官用の衣を織るように、と言われる。
相当値のはるものなのに、いっこうにかまわないと言う。
そしてこの事は絶対神社さんには知られないように、とおっしゃる。
私は、まるで神様の使いから命ぜられたかの如く、頭真っ白、あっけにとられてしまった。
試行錯誤する事約一年、ようやく布は織り上がり、報告のお電話を差し上げたのが一年前。
しかし、この時もNさんは不思議な人だった。今は体調が悪くて出られない。あなたを信用しているので直接京都の井筒屋さんに送ってくれ、と言うのである。
片手では足りないほど高価なお代をいただくのに、肝心の布は見なくていいとおっしゃるのである。
もうとっくに神衣は神社に奉納されただろうと思っていたところ、数日前またまたひょっこりNさんから、やっと縫製ができたので一緒に奉納式へ出てもらいたいというお電話をいただいた。
奇しくも、来月は事任神社の移籍1200年に当たる大祭が行われるという。

Nさんには霊感があって、今日は不思議な事がまだあった。
神社の奥様が数日後阿波忌部(あわいんべ)を訪ねる旅行に行かれるのだという。
忌部氏こそは、神代の昔から朝廷の儀式に使う様々な調度や物品を調達する高貴な一族であったのだ。
特に、阿波忌部は大嘗祭の時に麻布を織って献上する事で有名である。
そうか!事任神社と織物は関係が深いのか!
儀式が終わって奥様からお抹茶の接待を受け、四方山話をしていると突然Nさんが、これから村井さんの工房に行こう、と言い出す。
Nさんはこうと思ったら押しが強い。観光バスや参拝客の応対で大忙しの奥様を連れ出して、工房まで来てしまった。
奥様に別冊太陽の自然布特集のコピー(徳島木頭村の太布や阿波忌部のことが詳しく報告されている)を差し上げると大層喜ばれた。
葛布の色々な品をお見せし、あれこれと話が盛り上がり、楽しい一時だった。

それにしても、私に神衣を織らせ、神社の奥様と懇意にしていただくきっかけを与え、昼ご飯をおごってくれたりお土産まで下さるNさんとは、一体何者なのだろうか?
私にとってNさんは、まさしく神様からの使者なのである。これからこういう仕事をしてこういう人とおつきあいなさいよと、手取り足取りご自分の財布を軽くしてまで私にご教示下さる、ありがたい天からの勅使、といえようか。
このご縁をきっかけに、私は事任神社のご奉仕活動を始めさせていただくつもりである。
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2007年8月27日 (月)

ワークショップお疲れさま

昨日今年二回目の葛とりワークジョップが無事終わりました。
今回は遠く沖縄、しかも芭蕉布の本場からの参加者がいました。
七年間芭蕉会館で修行を積み、今年四月から自分の工房を持って独立したFさん。
違う技術を学ぶ意欲満々でしたが、かえって私の方が教えていただく事が多かったです。
74歳で織りが初めてというTさん。
炎天下の葛野原での収穫や、灼熱地獄の工房でも弱音を吐かずにゆっくりと着実に課題をこなしておられました。
いつも着尺を織っていて慣れた手つきが印象的だったSさん。彼女はとても社交的でいつもニコニコして皆のまとめ役でした。
遠く九州は湯布院からいらっしゃったYさん。
棉布(ゆう/かじや楮の繊維から布を織りなしたもの)の大家で著書も立派なものを書いておられます。他の自然布についても造形が深く、来年は甑島のくずたなし(経緯葛の撚り糸で織られた民衣。日本でここだけで作られ展示されているが、現在は絶えている)の熟覧ツアーを一緒に計画中。
静岡のAさんはワークショップのほんの数日前HPで大井川葛布を知り、親方が月一回開いている織物教室の見学に来られた方。染色経験ゼロながら見事に最後までやり遂げたのは、マラソンで鍛えた強靭な筋肉の助けがあったからでしょうか。
大阪の公務員Fさん。
大阪人には珍しく口数が少ない方で、几帳面でした。経、手績みの綿糸10番、赤ちゃんみたいな糸だからやさしく織ってね、と言うと、ほんとにやさしくやさしく糸をなでなでしながら織ってくれました。
文化財研究所のFさん。
上品で知的な方でした。うちにある江戸時代の道中着の襟がフェルトではなく毛織物だと発見してくれたのは彼女です。他にも色々古い絨毯や染織品の蘊蓄を聞かせていただきました。
親方の織物教室の生徒さんでもあるSさん。
年下の30代の参加者に心身ともに明るい、と評されたのが彼女の全てを物語っています。全くの初対面の参加者の誰にでもフレンドリーな態度で接し、ムードメーカーでした。
愛媛のKさん。
発音がはっきりしていて話し方がとても上品でした。知的障害者の指導員をされています。愛媛に帰ってから作業所の皆さんに葛苧作りを伝達してくれるそうです。うまくいけば来年から愛媛産の葛苧が届くかもしれません。期待しています!
誰か一緒に葛糸をつぐってくれませんか?という私の呼びかけにブログ上で応えてくれて、春から葛糸や綿糸を作ってくれているKさん。彼女の作った葛糸は抜群に細くて均質できれいでした。袋井の寺田さんが栽培している和綿を紡いで作ってくれた綿糸、大切に使わせていただきます。これからも糸作りで協力していただける頼もしい助っ人です。

ワークショップはとにかく暑いんです。
炎天下の作業だし、工房の作業場にはクーラーがありません。
それでも誰一人文句を言う訳でもなく、かえって連帯感が出てくるんです。
教える側も教わる側も毎日汗みどろ。ええかっこなんかしてられないんです。
参加者たちはみな織物や自然布が好きな人たちですから、話の内容が濃密で喜びも深いんですね。
私ども主催者も毎回参加者の皆さんから教えられる事の方が多いです。
こうやってどんどん人が繋がっていくといいですね。
広がれ、自然布の輪!

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たたらを使った糸繰り

この糸は難儀じゃ!
京都のA糸屋さんから買った苧麻の中糸。とにかく難儀。
かせの状態からして誠に不安で、どこが分かれ目だかよくわからない。
やっとこさかせを広げて繰ってみたもの、とじかる(絡むという意味の静岡方言)切れるの大騒ぎ。
なんじゃこの糸は!織られたくないのか!
こういう時は、普通のかせあげ器では全くあげられないので「たたら」という道具を使う。
たたらとは、二本の長い棒が床から垂直に立っているものと、一本の独立した棒が垂直に立っているもののセットを指す。
かせの長さに合わせて独立した一本を自由に動かせるので便利である。
たたらにかせをかけると三角形に糸が広がる。
三角形のちょうど中点から糸がまっすぐ上に上がるように仕掛けをして、ゆっくり糸繰りをする。
乱れたかせをあげるにはいい方法だ。
うちには正式のたたらがないので、整経台を利用して即席のたたらを用意した。
それでもやっぱり難儀して、途中泣きそうになったがやめる訳にはいかない。
これは作り直しを命じられた八寸帯の経なのだから。

八寸は九寸帯に比べて難しい。
布の端をそのままかがって作るので、布全体の幅がきっちり八寸でないといけないし、耳もきれいでなくてはいけない。
いったんお求めいただいた八寸帯、所々幅が足りなかった。
今度はきれいに幅を揃えるためテンターという織り縮みを防ぐ道具を使った。
秋の七草葛の花をイメージして赤と緑の有平縞を帯前とお太鼓に織り込んだ。
経苧麻、緯葛の希有な帯が出来上がった。

一本だけではもったいないと三本分いっぺんに経を巻いたので、あと二本分機にかかっている。
ワークショップも終わって一段落付いたので、明日からまた織りにかかろう。Dscf1079

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