Sさんの整経
工房の女の子Sさんが、今年の民芸館新作展に苧麻の角帯を出品する事になった。
糸はここ数年間こつこつと績みためたものを使うという。
毎年5月の畑焼きと7、8月の苧引きには必ず福島県昭和村に行くSさん。
もともと大学を出てから3年間修行したところなので、Sさんにとっては聖地巡礼といったところか。
7月の静岡新聞に私と一緒に写真が載ったのに、いくらSさんの携帯に連絡しても出ない。
宿泊場所の彼女の先輩の家へ電話をかけてもいない。
携帯がかからないところで一日中作業していたらしいので無理もないのだが、私は、彼女は神隠しにあったのだ、と思った。
結局まるまる一ヶ月すぎたある日、彼女の方から電話があってやっと連絡が取れた。
一ヶ月すこんと世捨て人のように世間から隔絶されて、ひたすら苧引きができるのは、すてきな事だと思う。
さて、Sさんの苧麻角帯の事である。
4月うちの工房に来てもらってから、ずっと苧麻を織れ、苧麻を織れと彼女に言い続けて来たが、なかなか腰を上げなかった。
そこで、思い切って親方用の角帯を注文したのである。民芸展に間に合うように、ちゃんと納期も決めた。
そして、今日Sさんは苧麻糸を使って整経をしたのである。
この糸は、昭和村で彼女が畑の手入れをし、種をまき、収穫して糸を引き、績みためた大切な大切な糸である。
Sさんが昭和村で教わった整経の仕方は、我々には驚きであり、新鮮だった。
まず、往復整経で織り終わりが輪になる事、数えあやの取り方が独特である事、そして、糸を上下に経ていく事など、私には初めての事ばかりである。
Sさんはみるみる手際よく糸を操る。
この方法だと、機の前後にかかる経糸のロスが少なくてすむ。
貴重な手績みの糸を使うのには有効な方法だと思った。
こうやって経た糸を自宅に持ち帰って、Sさんは自分の機で織る事になる。
今日は、お母さんに手伝ってもらって経巻きを終えただろうか。
素材感が薄いと言われる最近の民芸館展、Sさんの織った角帯はひときわ異彩を放つ事だろう。
入選は確実と思われる。
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